アイコンとなる建築を目指して
近年、一部の施工不備で発生した倒壊事故により、ブロック造に対する安全性の懸念が高まっている。本計画は、コンクリートブロックメーカーのオフィスビルとして、ブロック造の有用性と表現の可能性を広げることを目的とし、設計者とメーカーが協働で、ブロックの美観、強度、施工性の向上させる商品開発から着手した。
本件の構造は「鉄筋コンクリート組積造」(RM造)である。本構造は、RC造の柱や梁を用いるとこを必要とせず、純粋にブロックの量感と質感を強調することができる。一方で、壁式RC造と同様に耐力壁線で囲まれた構造区画(以下ユニットと呼ぶ)には大開口が設けられず、ここで働く社員間の連携や建物全体の一体的な利用には制約があった。
そこで、「二重壁構造」と呼ぶ耐力壁の配置により、必要壁量を短い壁長で確保することを考えた。それによりユニットに上下方向・水平方向ともに大開口を設けることを可能にし、従来のRM造で困難であった社員間の連携と立体的な視線の抜けを実現させた。
また、道路側アプローチである北面は、開口を廃することでブロックの量感、質感を最大化。素材とディテールに一貫性を持たせ、ブロック建築のアイコンを目指した。
二重壁構造による意匠性と性能の両立
「二重壁構造」は、開口部を最大化すると共に、壁の隙間を配管スペースとして利用できる。
壁の隙間はブロックの規格と相性の良い200mmと100mに設定し、同時に断熱層も形成。蓄熱量の多いブロックの特性と組み合わせることで、冷暖房負荷を低減し、エネルギー効率を向上させた。さらにブロック造の弱点である水密性にも寄与し、浸入した水はこの隙間から外部へ排出する。
こうした複合的な機能を二重壁に持たせることで、設備や断熱用のフカシ壁が不要となり、内外両方のブロックをそのまま仕上げとして表出させることが可能となる。ブロックの素材感と質感を損なうことなく、「構造=仕上げ」という純粋性をもたらす。
二重壁構造の採用によってRM造の弱点を補い、魅力を最大限に活かした計画となった。
フレームワーク効果
ブロックの純粋な量感を表現するために、構造体に取り付く異物は排除したい。室内開口部は枠を取り払い、これによりブロックの連続性が強調される。
ユニットを繋ぐ開口部は、水平および垂直に景色をフレーミングし、空間体験者の移動に伴い、視界のショットサイズがミドルからクローズアップへと変化する。立つ位置によっては、東棟から西棟までの景色をロングショットとして捉え、この建築が多様なフレーミングの連続体であることを認識させる。屋外スロープを移動する人々の動きは、室内利用者の視線を水平にパンさせ、レベルの変化によりアングルがアイレベルからローアングル、さらにハイアングルへと変化する。このようなフレームワークにより、空間体験は二次元的な景色の切り取りを超え、上下左右・遠近・時間という多元的な視覚体験へと開放される。この空間を訪れる人々は、多元的なフレーミングの中で過ごすこととなる。
バナキュラーと循環型経済圏
農林水産省の木材需要報告書によれば、2018年以降、国内におけるコンクリート型枠用合板の生産量は約3万㎡から5万㎡で推移している。一般的な鉄筋コンクリート造(RC造)における型枠の使用量は、延べ床面積の約5倍とされている(『建築方法の変革』増田一真著 建築思想研究社刊)。しかし、供給元である南洋材の枯渇が問題視されていることは広く知られている。
一方で、本計画で採用した鉄筋コンクリート組積造(RM造)は、スラブを除く型枠を不要とするため、RC造に比べて木材使用量を約1/4に削減できる。ブロックの利用は型枠の原料となる南洋材の保護につながるのだ。また、RM造のブロックは、セメントに骨材とスラグを混合し、即時脱型して製品化されるため、現地での生産が可能である。本計画では、ブロックの骨材とスラグを製造地から25km圏内で調達し、運搬距離を短縮することで輸送にかかるエネルギーの削減にも寄与している。
これらの取り組みにより、RM造は木材利用と輸送エネルギーの削減の両面から、持続可能な建築材料としての有用性を高めている。地産地消のバナキュラーな素材として、循環型社会の実現に向けた可能性を見出せはしないだろうか。
用途 社屋 構造 RM造(鉄筋コンクリート組積造) 撮影 外観写真 笹の倉舎 笹倉洋平 内観写真 小島康敬 設計協力 マツオコーポレーション tyto グラフィックス carutaクリエイティブ 原孝治