PREV

House06

House06

突然、学生時代の友人から葉山で住宅の案件があるから一緒にやらないか、と電話がかかってきた。建築主は、湘南エリアの豊かな自然と歴史、ゆったりした空気感に憧れて移住を決意されたとのこと。自分自身も、湘南エリアの独自のカルチャーに憧れもあったので、早速、快諾してこの案件がはじまった。
打合せは、建築主の借りている海辺の一室。話が終わったら、鎌倉まで移動し、バトー・アオキで地元の山海の滋味を味わう。老若男女問わず、フランクな口調の店主のトークが心地よく夜が更けていくのだ。田舎町なのに気の利いたお店が建ち並び、人もとにかく気さくで、カッコはつけないのに洒落ている。自然体な生き方がそこにあった。

さて、本敷地は葉山町の高台に位置する。北から南に抜けるその先に渓谷を望む絶好のロケーションだ。その反面、道路街区の目線では特別な風景を欠く二面性を持っている。そこで、道路から渓谷へ至るシークエンスを工夫すれば効果的に自然を感じることができるのではないかと考えた。

この計画では、敷地の奥行きを活かし、家の奥へ奥へと空間が多層的に展開する。前面道路からポーチに立つと、玄関越しにダイニング、リビング、テラスへと眺望を予感させる。視線の先にある窓からの光は、見る側に期待感を与え、順光に整った光は、穏やかに自然を感じさせる効果を生むのだ。

この地域らしいおおらかな建築を目指し、大屋根で内部ヴォリュームを包み込む。それは大きな一本の木製トラスで支えられている。また、土地へのダメージを極力小さくすることから、床のレベル設定は地形に沿ったものにした。
現地に足しげく通い、設計・監理したこの住宅の試みが地域の新たな文脈になったなら、自分も葉山町の一員になれたのかもしれない。

用途  専用住宅 構造木造  構造設計 桑島由美子建築設計事務所  撮影 楠瀬友将 施工 市川高野建築設計事務所  共同設計 市川高野建築設計事務所