立地の特性として、それぞれの宅地で挟まれた道路は、一般交通がほとんど無く、住人たちの共有空間としてすでに形成されていた。だが、クライアントの歴史、仕事、趣味嗜好を鑑みたうえで、周辺に暮らしと繋がるコンテクストは希薄と感じたこと。地域への積極的な開放は同時に住み手の暮らしぶりを晒すため、それには公共に帰属しつつ独立した個の意識が欠かせないこと。この理由からこの住宅では、周囲にどう開くかではなく、いかに閉じるかに着目した。
周囲のコモンズに対して適度な距離を保てること、落着きある内部空間が確保できること、環境との適切な親和性を持たせること、それらの理由からコンクリートブロックの外被をありふれた街のエレメントとして採用し、木軸を入れ子状にそっと落としこんだ。外部は閉じることで暮らしを包む反面、内部は開放的で暮らしにのびやかさを持たせることが不可欠であると考えた。
そのことから、薄い床躯体を実現できるNLT(Nail-Laminated Timber)を採用し、階間の距離を縮めると共に、段違いのスラブ構成で空間の連続性を持たせた。汎用性のある一般流通の金物だけを用いて105×150の集成材を筏状に連結し、木製のスラブを形成している。スラブは直ちに一階の天井となり、二階の床となる。このような即時的な構成・行為を建物全体のデザインルールとして、一階壁は耐力壁の構造用合板をそのまま仕上とした。その考えは既製品にも当て嵌められ、無駄な機能を排して解体、再構成するようにしている。
用途 専用住宅 構造 木造軸組み工法 撮影 小島康敬 施工 エムエス工務 設計協力 マツオコーポレーション